Vol.27

昨年のことになるが、ヨーロッパ視察に行ってきた。
パリ〜ミラノ〜ベネツィア〜フランクフルトを一週間でまわるという、どこかのTV企画のような弾丸ツアー。
目的は現地の伝統的な食文化のリサーチというところだ。
パリのビストロではちょうどボージョレー解禁に出くわし、イタリアでは"バーカロ"というスペインで言うところの"バール" をはしご、ドイツでは家庭的なドイツワインのワイナリーを見学。夜と朝には氷点下になるヨーロッパの石畳をさまよい、胃袋を満たし、したたかに酔っ払い、三ヶ国の言語に翻弄された挙句意味なく"OTTEMO!"を連呼する旅となった。
お約束のハプニングとして、パリからミラノへ向かう国際夜行列車アルテシアナイト「スタンダール」では、職員のストで食堂車の閉鎖に輪をかけて、電線の故障による影響で、2度と来ることもないであろう、スイス・アルプス山中の駅にて5時間の足止め。約14時間以上の車中監禁となった。

何かの予感かもしれないが、パリから電車に乗り込む小一時間前にサン・ジェルマンデプレの市場で、淫らに我々を誘うデリやらバゲット、チーズ、ワインを欲望のおもむくまま、しこたま買い込んでしまった。同行した有名シェフH.Y.氏などは、トゥレトゥール(お惣菜屋)に飛び込み、フォアグラのパテやらポークのリエット、新鮮なサーモンまで切り出してもらい、挙句の果てには「今回の旅は野菜不足」と、山盛りの生野菜と調味料を買い込んでいた。一体どうする気なのかと思っていたのだが、シェフの鬼気迫る行動は、真夜中を突っ走る列車のコンパートメント2人部屋を、シェフズルームに大変身させた。狭い差し迎えの2人掛けのソファーのど真ん中に、旅行トランクにシーツ(寝具)をかけてのテーブルセッティング。そして、てきぱきと食材をさばきまくる、まさかの車内調理!
中年男4人が膝を突き合わせて、飲み食いする欲望夜行列車!ワインボトルが開きまくるスタンダール大晩餐会!改めて、飲食業の人間は業が深いと感じ入ったアルテシアナイトでした。H.Y.シェフ、ありがとうございました。OTTEMO!

そんなこんなで、やっぱり旅というものはいろいろあるし、いろいろ感じるものだと改めて思った。そして、旅は、美しい感動の瞬間をプレゼントしてくれる。

少し遅いその日のランチは、イタリアのとある小さなバーカロ。
街一番の人気店とかで予約していたにもかかわらず、席が空かないのもご愛嬌。
凄まじく喧騒が心地よい。毎日来ている地元のお客さんたちが席を占領している。
ソーダ割りのワインを飲んでる、赤ら顔のオヤジたちは料理もそこそこに、けたたましく騒ぎはしゃぐ。新聞を広げた爺さんは、一杯の赤ワインでかれこれ2時間はいるのかもしれない。叫び声にも似たオーダーコールが飛び交う。マルチェロ・マストロヤンニ似の旦那と奥さんは、うるさそうに自分たちの皿をつついてる。勝手に席にありつこうとした、後から来たツィードのハンチング帽の男は、店の人間に怒鳴られ喧嘩腰でカウンターにかぶりつく。

最高だ。
僕の愛してやまない飲食店がここにある。

そして、最高のステージには最高の役者が揃う。いや、最高の役者が最高のステージを作るのだ。3,4人居たであろう、ラフなニットの赤いベストのサーヴィスマンたち。赤ベストとのコントラストも素晴らしい頭部は、白髪、もしくははげあがっている。全員年齢は多分70歳を超えている!のだと思う。
ジョークを飛ばしたり、お客さんとじゃれ合ったり、スタッフ同士の会話が漫才のような掛け合いになったりと、最高の笑顔で軽快にサーヴィスしている。
きっとこの店で30年、40年、いや50年働いているのだろう。もしかしたら、人生のほとんどをここで過ごしているのかもしれない。20歳の青年であった頃も、40歳の男盛りを迎えたときも。
開店準備をし、変わらぬ料理を提供し、お客さんと冗談を言い笑ったり怒ったり、時には涙したりして、一日を終え我が家に戻っていくのだろう。

朝が来て又、夜が来る。
一日一日を大切に自分らしく生きていく。
そんなあたりまえの事が、しみじみと心を震わせる。